リンは遺伝子を形成するDNA、エネルギーの元であるATP、細胞膜を形成するリン脂質、骨を形成するリン酸カルシウムといった生命にとってなくてはならない元素です。
また、リンはグアノという肥料の主要成分です。コウモリの糞や死骸が堆積して化石化したものはバット・グアノとよばれ、その利権をめぐり、チリ、ボリビア間の戦争(グアノ戦争)が起きました。人類の歴史上、リンの奪い合いがあったのです。
一方、生体内では、過剰なリンは様々な悪影響を及ぼすことが知られています。リンの腎臓での排泄障害、過剰摂取や透析不足、経口リン降下薬の飲み忘れなどにより高リン血症が生じます。高リン血症はカルシウムとリンとが結合し骨以外の様々な組織に沈着する、異所性石灰化を引き起こします。血管に沈着すると動脈硬化や脳梗塞、心筋梗塞を引き起こし、関節ですと関節炎、皮膚だとかゆみの原因になったりします。一方で高リン血症はビタミンDの産生低下を引き起こし副甲状腺よりi-PTHというホルモンを過剰に産生させます。このホルモンは骨を溶かし、その結果、骨からカルシウム、リンが血中へと流失します。骨がもろくなったり、骨関節に痛みを生じます。こうしたリンやカルシウムといったミネラル代謝異常が骨病変や血管の石灰化に関与するという概念を慢性腎臓病ミネラル・骨代謝異常(Chronic kidney disease-mineral and bone disorder, CKD-MBD)と近年呼ぶようになりました。CKD-MBDは心血管病や骨折、生命予後に影響を及ぼし、リンはその病態に深く関与しています。
近年の研究で高リン血症は血管の内皮障害や血管の平滑筋細胞を骨芽細胞へと変身させてしまい、血管の石灰化、動脈硬化を引き起こすことが解かってきました。その結果、心筋梗塞や狭心症、脳卒中、下肢動脈血流障害などの心血管病の発症を引き起こします。また、一方でリンは骨よりFGF-23というホルモンの産生をうながします。このFGF-23もまた様々な病態との関連が盛んに研究報告されており、心臓の肥大などを引き起こすといわれています。リンを中心としたCKD-MBDの概念は、以前は図1のような概念でしが、近年ではそれに加えて図2のような概念が加わっています。リンを下げるための食事についてはこちらへ。
<まとめ>
高リン血症により
・カルシウムとくっつき異所性石灰化を引き起こし、動脈硬化や痒みを引き起こすことがあります。
・i-PTHの産生の増加につながり、骨がもろくなる可能性があります。
・近年、血管の平滑筋細胞を骨の細胞に変化させたり、骨よりFGF-23の産生を促し心機能障害を引き起こすことなどにより、心血管病の発症に関与することがわかってきました。