低酸素誘導因子(hypoxia-inducible factor;HIF)はその名の通り、体が高山など低酸素状態にさらされると多く発現します。
HIFはエリスロポエチン (Erythropoietin, EPO)の産生を介して赤血球造血を促進します。EPOは比較的未成熟な赤血球に作用し、赤血球の産生を促します。また一方でHIFは鉄吸収や鉄利用に関わる遺伝子の発現調節を介し、鉄が造血に有効に使用できるようにします。鉄は赤血球の材料、ヘモグロピンを構成する要素として使用され、赤血球の成熟に関与します。このように、HIFはEPO産生と鉄代謝を改善するという多面的な作用で貧血を改善します(図1)。
HIFは酸素濃度が高いときには低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素(HIF-prolyl hydroxylase, HIF-PH)によって分解されます。近年、このHIF-PHの作用を阻害することによって,HIFを安定化させ、貧血を改善する薬剤、(HIF-PH阻害薬, HIF stabilizer)が世界に先駆けて日本で臨床使用できるようになりました。
今までのエリスロポエチン製剤のEPO産生を促す作用に加え、このHIF-PH阻害薬は前述の鉄代謝を改善する作用を持つため、慢性炎症による鉄利用障害に対する効果が期待できます。また今までのエリスロポエチン製剤は静脈注射や皮下注射であるのに対し、HIF-PH阻害薬は内服薬であるのも特徴です。
2020/11現在で使用できるHIF-PH阻害薬の一覧は表1の通りです。ただし、HIF-PH阻害薬が他の遺伝子発現に関与する可能性も指摘されており、血管新生因子を介する網膜症の悪化や、腫瘍進展のリスクに注意が必要です。日本腎臓学会より「PIF-PH阻害薬適正使用に関するrecommendation」が発表されており、使用にあたっての注意事項が記されています。下記URLをご参照ください。